今日夕方に、薬を届けに行った患者さんの話を聞いてほしい。
20年以上前から、この家の御夫婦とは付き合いがあるのだが、それはもう本当に仲がよさそうで、お二人とも気さくで、明るく、私だけでなく誰からも好かれる感じの御夫婦であった。
ところが5年ほど前より、ご主人は
認知症を患い、ついにこの前、施設に預けられる事になった。
ずっとご主人の介護をしてきた奥さんにとって、寂しいながらもホッとされたことであろう。
さて、その後、奥さんが歯医者で歯を抜く治療に行かれた際、飲んだ薬のために、震えがその後5日間も止まらなかった事があったそうである。
1日病院に入院までされたそうだが、ご主人を施設の職員が連れてきた際、震えが止まらない不安感のため、ご主人に抱きついて、涙がとめどもなく出てきたそうである。
ご主人も、
大丈夫かと優しく抱きとめたらしい。
この奥さん、実は幼い頃にご両親とも亡くされ、甘える事が全く分からずに育ったので、これまで涙を流す事は全くなかったそうである。この方のお歳は87歳
87歳にして
初めて流した涙であったというわけである。
どれだけの思いがこもった涙か、想像できるだろうか。
この話を聞いていた私は思わず少し涙が出てきた。何かしら熱いものを感じた。
私はと言えば、この方とは正反対の、人に甘えることが大好きで涙もしょっちゅう流すが、実に良い話を聞かせてもらった。